ペー

In English 長い間離れて暮らしてはいるが、弟や妹とは仲のいい方だと思う。 弟は、大学を出て就職し、結婚をした後、家を建てて安泰な生活をしている。 妹は親と一緒にいる。 私はと言えば、未だに、次にどこで何をしでかすのか、自分でも見当のつかない人生を送っている。 三人が小学生の時は、当時できたばかりの団地で育った。 団地内にはブルドッグを飼っている一家がいて、ペーという名前で、今考えるとおとなしい犬だったんだろうが、子供にしてみれば大きな怖い犬に思えた。繋がれていないことが多く、外を散歩しているのを見ると、団地の子供達はそそくさと家に隠れていた。 ある日曜日、掃除を済ませたかった母にせがまれて、父は私達三人を車で連れて出かけた。どこか近くに行って時間をつぶしてから戻ってきた後、父は車を団地の駐車場に止めた。 真っ先に飛び降りた私は、車の後ろを回って家に向かうところだった。少し離れた所で、ペーが独りで立っているのが見えた。飼い主の姿は見えない。 逃げなければと思った。とりあえず走った。追いかけてきたぺーに捕まらないないように必死で走った。どこに走っているのかも分からないまま、走った。 あまり行かない所で追い付かれ、押し倒され、顔をなめられている所に飼い主がやってきたが、私はアパートの横の空き地に向かって突っ走っていたようだ。 一番下の妹は、すぐに父に抱かれて無事だった。弟は家まで走って、靴のままこたつの上に飛び乗ったそうである。 父は、三人の人生を物語った出来事として、この時の話をよくしたものだ。 私は、あれ以来ずっと犬が怖かった。 そんな私がどうして大きな犬二匹と暮らすようになったのか。 その話は、こちらで。     Continue reading ペー

弁当屋さん

  祖母が亡くなってから、もうすぐ五年が経つ。九十歳を超えていたし、自分では立つこともできなくなっていたから、よほどきつかっただろうなと思う。耳が遠くなり、身体が動かなかった分、聞いてくれる人があれば、いつも同じ話を繰り返していた。   あれは、弟が生まれて、母が妹を身籠っていた時で、私が三歳くらいの時だったと思う。私は祖母と二人で列車に乗っていた。 その前の年に、弟が生まれた後、赤ん坊とまだ小さい子供の世話で忙しかった母の為に、祖父母は私をしばらくの間預かったことがあった。初めて祖父母に連れられて、通り過ぎる小さな町や田畑を眺めての、急行列車での長い旅だったが、預かっていた間も私は泣くこともしなかったので、再び祖母が迎えに来たのである。 私と自分の為におにぎりとお茶を持参していた祖母は、昼時に列車が途中駅に着いた所で、お茶を取り出した。 その時、突然私が開いた窓からのめり出し、何かを探し始めた。あちらを見て、こちらを見る。挙げ句には開いているドアの所まで行って見回す。席まで戻ってくると、また身体をのり出した。 「どこにおるとかね。すぐに出るとに。」 何事かと祖母が思っているうちに、とうとう探していた人を見つけた私は手を大きく振った。 「弁当屋さーん。」 走ってきた弁当屋にいいとは言えず、祖母は仕方なく弁当を一つ買った。 美味しそうに弁当を食べている私を見ながら、祖母は、前回、同じ駅で弁当とお茶を買ったことを思い出した。幼い私が覚えていたことに感心したという。   祖母の記憶にある自分がずいぶん賢い孫になっているようで面映かったが、何度も同じ話を聞いているうちに、あの話の中の子供になったような気がしたものである。   In English     Continue reading 弁当屋さん

blue butterfly/蝶

On a tourist-crowded train, Slowly climbing up a mountain. Cool air wafting in, Past open windows. Amidst lush green of bush and trees, Silver-blue wings flutter, Reflecting sunlight piercing through saturated leaves. She dances awhile, flickers a bit, Then scurries away, Leaving a memory of You, me and a blue butterfly… 飛べるかな、と思う。 あの日の蝶のように。 誘いかけるように、 瑠璃色の羽をはためかせて、 林の中に消えていった、あの蝶のように。 気高さを内に秘めて、 それ故に、自由に、 私は、飛べるかな。 Continue reading blue butterfly/蝶